和歌山地方裁判所 昭和23年(行)22号 判決
主文
被告が昭和二十三年八月二十四日原告所有の和歌山県那賀郡安楽川村大字市場字安楽賀百四番地所在宅地四百八十五坪についてなした買収計画はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文のような判決を求め、その請求の原因として、
(一) 右宅地は、もと、原告の養父亡岩田常右エ門の所有であつたが、昭和二十年六月九日その死亡により原告が選定家督相続人としてこれを相続した。
(二) その後、被告は、訴外田村米二外三名の申請に基ずき、昭和二十三年八月二十四日右宅地が亡常右エ門の所有であるとの前提の下に、自作農創設特別措置法(以下自作法と略称する)第十五条により、これに対し買収計画を立てた。
(三) しかしながら、この買収計画には少くとも次の二つの不当がある。
(イ) 被告は本件取消請求にかかる買収計画の樹立より前に、昭和二十三年五月二十四日前記と同一の申請者の申請に基ずき同一宅地につき同一法条によつて買収計画を立てたことがあり、原告の異議申立の結果これを取消し、その決定は既に確定しているのである。然るに、被告は同一事案について再び本件買収計画を立てるに至つたものであるから本件計画は失当である。
(ロ) 本件宅地は住宅密集地に位しており単に農家がここに居住しておるだけであつてその耕作する農地との間に直接な農業経営上の結びつきがない。自作法第十五条に、いわゆる宅地買収を相当と認める場合とは、同法第三条の規定によつて買収する農地につき自作農となつたものがその農地に附属している宅地を併せて買収することが農業経営上必要とせられる場合に限るべきものであるから本件のような宅地は買収すべきものではない。
(四) 原告は以上の理由から本件買収計画に対し昭和二十三年八月二十八日被告に対し異議の申立をしたが同年九月七日棄却され、更に同月十八日和歌山県農地委員会に訴願の申立をし、同年十一月八日棄却裁決の送達を受けたので、改めてここに本訴に及んだ次第である。
と陳述し、被告の答弁に対し、本件買収申請者四名中田村米二を除く三名は賃貸借上の権利を有することはこれを認めるがその余の被告の主張事実はこれを否認すると述べた。(立証省略)
被告代表者は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告の主張の前記(一)、(二)及び(四)の事実並びに被告がかつて前記(三)の(イ)記載の通り買収計画を立てたところ原告の異議申立を容れてこれを取消したことはこれを認める。然しながら、右最初の買収計画はその計画樹立後、同一目的につき買収申請者と原告との間に任意売買の交渉をするというので、これを取消したのであるが、右交渉は代金の額について折合いがつかないため遂に妥結に至らなかつたので、被告は再び右と同一申請者の申請に基ずき本件買収計画を立てたものである。原告は、その請求原因(四)の(ロ)に於て買収宅地と農地との間に附属性を必要とすると主張するけれども、法はかような関係の存在を要件としていないのみならず、本件宅地買収申請者はいずれも原告との間に於ける賃貸借に基ずき原告所有の本件宅地に家屋を所有し、ここを生活の本拠として農業を営み、ここに農具や農作物を保管しているものであつて必ずしも附属性なしとはいえない。仮りに右買収申請者のうち田村米二に賃借権がないとするも同人は使用貸借による権利があるから、自作法第十五条に基ずく本件宅地の買収は正当である。
と陳述した。(立証省略)